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東京高等裁判所 平成7年(う)482号 判決 1995年6月26日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人中田規子作成の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官遠藤英嗣作成の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

控訴趣意第一(審理不尽の主張)について

所論は、要するに、本件において被告人の性格、境遇、情状についての審理が欠如していることは明らかであり、原判決には、審理不尽の違法がある、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、確かに、記録によると、所論が指摘する被告人の性格、境遇等も含め、犯情を除く被告人の情状関係の証拠としては、被告人質問、被告人の捜査官に対する供述調書のほか、被告人の直前の勤め先の社長の供述調書があるのみであり、被告人の家族らの供述調書等は一切取り調べられておらず、そもそも請求さえされていない。しかし、右証拠でもつて被告人の情状に関する審理が十分であつたかはともかく、一応被告人の性格、境遇等をうかがうことはできるのであるから、被告人側において家族らを情状証人として請求するなどもしていない本件においては、これをもつて審理不尽に当たる違法があるとは到底いい難いというべきである。

論旨は理由がない。

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、原審における未決勾留日数を一日も本刑に算入していないことも含め、原判決の量刑は重すぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、被告人が、平成六年六月から一二月にかけて一五回にわたり、駐車中の自動車内(ただし、一件は自転車前篭内)から現金合計約二九万八七一一円及び手提げかばん等合計二一二点(時価合計約二五万四一七三円相当)を窃取した、という事案である。被告人は、仕事もせずパチンコに興じるうち、パチンコ代欲しさに本件各犯行に及んだものであり、その動機は自己中心的であり、何ら酌量の余地はないこと、犯行の態様も、ロックされていない駐車車両を狙い、ロックされている場合は鍵穴にはさみを入れてこじ開け、車内にある金品を連続的に窃取していたものであり、手慣れた手口で計画性もあるなど、悪質であること、被告人は平成元年五月に窃盗、同未遂罪により懲役一年、三年間執行猶予に、平成四年四月に窃取、同未遂罪により懲役一年六月にそれぞれ処せられながら、何ら反省することなく、前刑の執行終了後五か月で再度同種手口の犯行を始めるに至つており、被告人の盗癖の深さがうかがわれ、再犯も懸念されることなどに徴すると、本件の犯情は芳しくなく、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

それ故、被害品は、現金を除き、大部分が被害者らの下に戻り、回復を図られていること、被告人は本件を反省し、所持金の中から被害者らに一部弁償をし、残りの弁償についても必ず行う旨誓つていること、その他被告人の家庭の状況等、被告人のために酌むことができる諸事情を十分考慮してみても、被告人を懲役二年に処した原判決の量刑が重すぎて不当であるとは認められない。

ところで、所論は、原判決が未決勾留日数を全く算入しなかつたことを問題にするので、これについて検討するに、未決勾留日数の算入、不算入は、裁判所の裁量に属するものではあるが、事案の規模及び性質、審理経過、被告人の責に帰すべき事由の有無等を勘案して、通常審理に要すると考えられる日数を除くその余の日数は本刑に算入すべきであり、この基準に照らし算入、不算入が著しく妥当性を欠く場合には量刑不当として破棄を免れないと解されるところ、これを本件についてみると、記録によれば、被告人は、平成六年一二月二日に原判示別表番号七及び一〇の各事実により勾留されて、同月九日に両事実について起訴され、平成七年一月二五日に同番号一二ないし一五の各事実について、同年二月二八日に同番号一ないし六、八、九及び一一の各事実についてそれぞれ追起訴され、いずれも併合審理されたこと、公判は、平成七年一月一八日、二月一三日及び三月六日に開かれて結審し、同月八日に判決が宣告されたが、被告人は、いずれの事実も認めており、右の経過は主として追起訴の審理のためのものであることが認められる。これらの事実に照らせば、原審における未決勾留日数九六日、勾留事実についての起訴後の未決勾留日数八九日のすべてが審理に必要な期間であつたとはいい難く、原判決が未決勾留日数を全く算入しなかつたことは当を欠くものといい得る余地がないではないが、いまだ著しく妥当性を欠く場合に該当するとまでは認め難く、所論は採用することができない。

論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、平成七年法律第九一号による改正前の刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用については、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田良雄 裁判官 池田真一 裁判官 毛利晴光)

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